嚥下障害に対する食事介助の基本と口腔機能の練習方法

近年、日本では誤嚥性肺炎によって全身の健康状態が悪化して入退院を繰り返す高齢者が増えています。誤嚥性肺炎になると体力を消耗して病気に対する免疫力が低下してしまい、本当に深刻な問題となっています。しかし、食事にむせている高齢者は多く存在し、一人一人にどのように対応すれば良いかを考えることは難しいです。特に家族介護者には難しい課題になっています。それでも毎日食事をする場面があり、もしも毎日の食事が苦痛になっている介助者がいるとしたら、少しでもその解決方法のヒントになるための嚥下障害のポイントを説明していきます。
嚥下障害がある人に食事の介助をするためには、嚥下障害がどのような原因で生じているかを考える必要があります。食事をする時は、まず食事の時間を認識して食べ物を口に運ぶことから始まります。そして、口に入れると咀嚼して食べ物を飲み込みやすい状態にしていくと同時に唾液を多く分泌していきます。最後に食べ物がのどを通っていきます。この3つの行程が重要になるのですが、どこに一番問題があるか、もしくは複数の問題があるかを考えます。一般的に多い嚥下障害は食べ物がのどを通る時だと思います。この時にむせて誤嚥するので、一番重要になり、一番分かりやすい問題です。しかし、飲み込む瞬間を練習することは素人には非常に難しく、本来であれば専門家の言語聴覚士が行う嚥下の練習が必要になります。言語聴覚士による嚥下の飲み込み練習では、とろみをつけた水やゼリー、硬さを変えた食べ物などを段階に分けて食べていきます。段階に分けて食べる練習をする中で、本人が飲み込みやすい食形態を評価していきます。もしも、家族や介護職員が嚥下障害のある人に食べる介助をする時は、まず食形態が本当に適切であるかを十分に吟味しましょう。
一番難しい食べ物は、のどをすーっと通ってしまう水です。水分は誰もが摂取するものですが、毎日当たり前のように飲んでいるため意外と問題視されていないかもしれません。水の中に雑菌も入っていなければ誤嚥性肺炎になるリスクが軽減することは考えられますが、それでも気管から肺に向けて異物が混入することは避けなければいけません。水に対してとろみをつけることを嫌がる人は多いかもしれません。そのような場合は、口に入れる1回の量を出来るだけ少なくして下さい。水を多量に口の中に入れても、飲み込む量は限られています。ずっと口の中に水を溜め込みながら複数回に分けてちょっとずつ飲み込むことになります。始めからごく少量のみを口に入れるように徹底するだけでも水分によるむせは減ります。
水に限らず、食事をする時の注意点として、まずは口に入れる1回の食べ物の量は小さなスプーン1さじ分くらいにしましょう。そして、口の中に溜め込んでいないかを観察した上で次の食べ物を口に入れましょう。嚥下障害がある人はどうしても食事にかける時間が長くなってしまいますが、口の中にどんどん食べ物を詰め込んでいっても結果的に飲み込むスピードが遅くなってしまうので食事の時間はあまり変わりません。むしろ、むせてしまうと口から食べ物がこぼれ落ちて掃除をすることに時間を割く必要があります。また、食事をする時に姿勢を整えることは非常に重要なことです。少し前傾姿勢となり、顎が上がらず、下を向かずの口が地面と水平になるくらいに顔の位置を調節します。食べる時には呼吸を止める必要があることや、頸部の筋肉を動かす必要があることから、姿勢が悪いとこれらの活動が阻害されてしまいます。具体的な姿勢が分かりにくいと思う人は、介助される人と同じ姿勢を自分で作ってみて下さい。背もたれに寄しかかった姿勢や顎が上がった姿勢、背中が丸い姿勢など、自分で同じ姿勢をして同じように誰かに食べさせてもらって下さい。自分が体験することが食べやすい姿勢を知る最も良い方法です。
食事を通して嚥下を練習することは重要ですが、食事ではなく口腔機能そのものを鍛える練習も重要です。のどに食べ物を通した実践的な練習を直接嚥下訓練と呼び、のどを通さない口腔機能を高める練習を間接嚥下訓練と呼びます。間接嚥下訓練は、噛む練習、唾液を出す練習を行っていきます。具体的にはするめや昆布など、味を楽しめる食べ物でとても咀嚼しきれないものを選びます。とにかく噛む、噛む、噛むを繰り返します。噛む練習と同時に唾液が沢山でるようになります。唾液はもちろん飲み込むことになり、結局は唾液を飲み込む練習になるのですが、主な目的は噛む力を鍛えることと、唾液を出やすくします。食べ物を細かく刻んだ食形態やすりつぶしてペースト状にした食形態では噛む必要はほとんどなく、唾液もあまり出ません。一概には言えませんが、噛む必要がなく、唾液も出ない状態で口の中に食べ物が入っていると、飲み込むタイミングが難しい場合があり、ダラダラとのどを通っていくことがあります。嚥下状態の評価で敢えて食形態を安全なものにしていても、実は誤嚥していると非常に残念です。噛むことと唾液を出すことは非常に大事な要素となります。唾液には、咀嚼した食べ物をコーティングしてのどを通りやすくする効果があり、とろみ剤を使用しなくても噛めば噛むほど飲み込みやすい状態に食形態が変化していきます。食事で沢山噛むことは大変な作業ですが、普段から間接嚥下訓練を行っていれば基礎的な口腔機能は鍛えられます。スポーツ選手がフォームやボールコントロールの技術面を練習すると同時にウェイトトレーニングやジョギングなどの基礎体力を鍛えることと同じです。食べ方の練習と同時に噛んで唾液を出す力を鍛えましょう。
認知症を患った人や、注意力が低下している人は、そもそも食事の時間にぼーっとしてしまい、食べ物を認識していないことがあります。それにも関わらず、食事の介助で食べ物を口に入れても咀嚼も十分にせず、はっきりとした飲み込みもしないため、誤嚥してしまうことになります。食事をする時には、食べ物を見ただけで唾液が出たり、口を開けてまずは食べるための体と脳が準備をします。しかし、脳に何かしら機能低下があると食事そのものに興味が向かず、食事に時間を要することになります。食事に興味を示すためには、環境づくりも重要な要素になります。食事をするためにキッチンで調理をしている時から嗅覚や視覚で食欲を高めていきます。そして、献立では本人が好きな物を混ぜながら栄養バランスを考えます。一人で食べるよりも家族で食卓を囲み、食べる楽しみを感じてもらいながら体を脳に食事の時間であることを認識してもらいます。もしも、周囲に人がいることで食事に集中出来ない場合は、少人数となり本人が食べることだけに集中してもらい、テレビや雑音も消すことが良い場合もあります。
以上のように、嚥下に問題がある人の食事介助をする時は、まず食欲を高めて食事に注意が向くこと、食べたいと思わせることが先決です。そして、飲み込みやすい量を口に入れて口の中から食べ物がなくなったことを確認して次の食べ物を入れます。その時に、食形態が適切であるかを常に考えることと、沢山噛んで唾液がしっかりと出ているかも確認しましょう。食事の嚥下状態を観察することは素人では難しいので専門家である言語聴覚士に評価してもらえる場合は是非お願いしましょう。健康の秘訣は食事から始まると言っても過言ではなく、単に栄養摂取をするだけでなく、食べる行為そのものが脳に刺激を与えることになります。楽しい食事、美味しい食事はもしかしたら薬に勝る健康効果があるかもしれません。

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