要介護状態の高齢者が自宅で転倒する特徴と対策

以前、訪問リハビリの仕事を通していた時に、介護保険サービスで訪問リハビリを利用している人の転倒調査をしたことがあります。訪問リハビリを利用している人は自宅内の移動や日常動作が困難であったり、転倒の不安を抱えている人がほとんどです。私達、訪問リハビリに従事している理学療法士や作業療法士は自宅での生活において、どのようにすれば転倒が少しでも減少するかを常に考えています。
どんなに歩く練習をしても、バランスの練習をしても、段差解消や手すり設置をしても、転倒する人は転倒は少なからず発生します。ですが、転倒の発生するリスクを少しでも減らすことで1ヶ月に5回転倒する人が3回になる、3か月で2回転倒する人が1回になるなど、転倒0は無理でも転倒の頻度を減らすことは出来ると考えています。そのためには、要介護状態の高齢者が自宅内で転倒する時はどのような状況で転倒するかを把握する必要があります。

転倒調査の結果から、①転倒する場所②どのようにバランスを崩して転倒するか③転倒する時の環境転④倒する人の運動機能⑤転倒する人の認知機能、について特徴を説明します。

①転倒する場所
一般の健常な高齢者(要介護認定を受けていない人)は、自宅外で転倒することが圧倒的に多いです。要介護状態の高齢者は屋外での転倒が10%程度、残り90%は自宅内で転倒します。自宅内で転倒することがほとんどであり、常に転倒リスクが存在するということになります。自宅内の転倒する場所は1番多いのがベッドの近く、2番目にトイレ、3番目にリビングです。特徴としては1日を多く過ごしている場所が多いこと、立ち座りが多い場所となっています。立ち座りで転倒することもありますが、歩き始めや立った状態で手を伸ばす動作(ドアノブに手を伸ばす、電気の紐・スイッチに手を伸ばす、手すりを掴もうとする)が転倒の原因になることが多いです。
②どのようにバランスを崩して転倒するか
一般の健常な高齢者は、段差につまずいて転倒することが圧倒的に多いです。要介護状態の高齢者は振り返る動作、動く方向を変える動作が1番多く、つまずいたり、滑ることが原因でバランスを崩すことは少ないです。特に、上半身や顔だけ向きを変える場合、下半身の動きがついて来ないため、そのままヨロヨロとなりバランスを崩して転倒に至ることがあります。また、向きを変えながら手を伸ばす、視線が横を向く、後ろに一歩下がるなど、ちょっとした動作が加わるだけでバランスを崩して転倒します。要介護状態の高齢者は一歩踏ん張ることが難しいので一度バランスを崩すと、2歩、3歩と足を出して踏ん張りながらも十分にバランスを修正できず転倒してしまいます。この場合、ゆっくりと転倒することが多いので骨折などの重大な怪我に至ることは少ないですが、無理にバランスを修正しようと頑張れば頑張る程、最終的に重大な怪我がしやすい姿勢で転倒することがあります。
③転倒する時の環境
一般の健常な高齢者は平地で転倒することはほとんどないです。暗い夜道や気づかない段差、思ったよりも高い段差などがあって初めて転倒します。要介護状態の高齢者は何も段差がない平面な床で転倒します。段差がある場所では、注意を払って段差を乗り越えるため意外と転倒は発生しません。何も段差がない普段から危険の意識が少ない場所で転倒することが多いです。床面の滑りやすさによる影響は、普段から足を滑らせて歩く(すり足)人は問題ありませんが、足の感覚が鈍い人、足の指が十分に機能しにくい人は床面が滑りやすいフローリングなどは転倒しやすい傾向にあります。逆に、すり足の人は滑りが悪いカーペットなどで転倒しやすい傾向にあります。また、夜間の暗い廊下を歩く場合、照明の暗さが原因で転倒することは少なく、夜間の注意力低下による転倒が多いです。
④転倒する人の運動機能
一般の健常な高齢者は足腰の筋力、バランス能力、歩行能力の低下によって転倒する危険が高くなります。要介護状態の高齢者も同様に運動機能が低下すると転倒するリスクは高くなることに違いはありません。しかし、明らかな歩行障害(10m歩く時に1分の時間がかかる、杖や手すりがないと全く歩けない)でも転倒しない人も多く存在します。つまり、単純に運動機能が低ければ低いほど転倒するわけではないです。明らかな歩行障害がある人は、自宅内を移動する時に手すりを使用する、危険な動作はしない、無理に急いで歩かない、トイレは余裕をもって済ませるなど、転倒しないように注意を常に払っています。
⑤転倒する人の認知機能
一般の健常な高齢者の認知機能低下に関する転倒の研究は少ないので比較することが困難ですが、要介護状態の高齢者は認知機能の問題解決能力や注意力が低下していると転倒するリスクが高くなります。単なる物忘れだけで転倒することは少ないです。転倒に注意を払い続けることが出来るか、転倒しないように計画を立てた行動が出来るか、転倒しないために安全な動作方法を選択出来るかが重要なポイントです。また、自分の体がどのような運動能力を持っているか十分に把握していることも重要です。以前はこのくらい動けたから大丈夫と考えている人は転倒する可能性が高いです。

以上のように、要介護状態の高齢者が自宅内で転倒するリスクは一般の健常な高齢者とかなり異なります。よくある転倒予防の講座やネットでの情報、健康の冊子などは、主に一般の高齢者向けに情報提供されていることが多いと思います。もちろん、転倒予防の内容に間違いはありませんが、自宅で要介護状態の高齢者がどうしたら転倒しないか悩んでいる人がいれば、一般の健常な高齢者向けの転倒予防では対策として行う内容も変わります。

要介護状態の高齢者が行う転倒対策のポイント
運動機能の練習では、長い距離の歩行練習や単なるつま先を挙げる練習ではなく、短い距離の歩行練習や複合的なバランスの練習を中心に行います。特に、立ち座りと方向転換を加えた3m程度の歩行練習が有効です。また、後ろ向きに歩く練習や視線を横に向けた状態で歩く練習など、バランス能力の要素を多く含む練習も重要です。
認知機能の対策では、本人がどうしてこのような行動をしてしまうかを傾聴しましょう。安全な方法は調べれば誰でも分かると思いますが、実際に安全な方法を本人がしてくれないことが問題です。高齢者にはこれまでの長い人生の中で築き上げられた習慣や風習、価値観などが必ず存在します。これを無視して「危険な行動は駄目です。安全な方法で絶対して下さい。」と言っても本人は行動に移してくれません。特に認知機能が低下した人であれば、自分で意識して問題解決することは難しいです。本人の考えを尊重した上で、出来る限りの転倒リスクを減らす工夫をしましょう。転倒のリスクを10から7に減らすだけでも効果はあります。転倒のリスクを10から0にしようとして全く無視されてしまえば、結果的にリスクは10のまま変わりないことになります。
自宅の環境調整は、段差がある場所や立ち座りが多い場所に手すりや掴まる物を設置しましょう。一般的な転倒予防の対策と基本的には同じで良いと思いますが、何も段差がない場所を広い空間にしておくよりも、いつも歩く移動線には安定した家具などを近くに置くようすれば生活の一部として転倒予防に活用できます。また、タンスの引き出しから服を出す動作で一歩後ろに下がる場面や、ドアの閉める時に後ろを振り向く場面が生じないような工夫も有効です。出来る限り後ろに下がる動作や向きを変える動作、手を伸ばす動作を避けて簡単に生活の行為が出来るようにしましょう。
最後に、要介護状態の高齢者は転倒を0にすることは無理と言っても過言ではありません。転倒した時に重大な怪我を回避できるための工夫として転び方の練習や固い床面・尖った物の除去、日頃から骨を強くする栄養の良い食事をすること、骨を守るヒッププロテクターを使用することなど、出来る限りの対策を行うことが重要です。

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