認めてもらえた瞬間

ショートステイの職場に転職して、2ヶ月が経ちました。初めて顔を合わせる利用者には、「福祉太郎です。よろしくお願いします」と挨拶をしてきました。また何度か利用される利用者の顔と名前、好み、ADL、気性などもわかるようになってきました。しかし、そんな中でこちらが挨拶しても、無反応で椅子に座ったまま、目も合わせてもらえない、言葉も発しない男性利用者がいました。夜勤帯のお気に入りの女性の職員が泊りでいると、いつもは歩行困難で、両手引きしか歩けないその人が、「話しようや」と言って、居室のドアまで出てくるのが、転倒しないかと不安で怖いと言われるのが、本当なのか、不思議でとても理解できませんでした。両手引きでトイレに行ってもらう時も出来るだけ丁寧に話しかけ、何とか言葉を発してもらおうとするのですが、1ヶ月経っても、2ヶ月何の状況の変化はなく、そのお気に入りの職員から話を聞くと、「昨日も夜中の0時に出てて来て、話をしようというから1時まで話をしていた」と言われるのだが、声さえも聴いたことがないので、そんな長く話が出来る物なのか、不思議でなりませんでした。そのくせ、私が出勤してきたりすると、何も言わずに驚いたような表情でじっとこちらを見つめる事があるので、それが不思議でたまりませんでした。

男性が好きではないといわれても、男性職員しかいない時間帯もあり、そんな時に困るのが服薬をしてもらう時です。薬を飲んでもらえない。仕方がないのでゴム手袋をして薬を口に運ぶと、差し込んだ人差し指をしっかり生えた自分の歯でガチガチと差し込んだ私の人差し指を噛まれてしまいます。やっとの思いで差し込んだ薬は口から「プッ」と吹き出してしまう。本人のためだから飲んでもらいたいのだが、「ガン」として抵抗してされてしまう。出来るだけ人差し指を噛まれないようにと、浅く口の中に指を入れても、薬を飲む前に指を噛みに来られてしまいます。もう観念して、女性職員がいる時には代わって服薬をしてもらうこととしました。浅めに指を唇に入れようとしたら、わざわざ私の噛みに来た時に、そこまで嫌われるかとショックと共に苦手に感じてしまったからです。そんなある日、私を含めて男性職員が3人だけになった日。男性職員だけとはいえ、その中の古くから勤める男性職員の声かけなら、その利用者は頷いて手を出して薬を飲んでもらえることが出来るのですが、その日は機嫌が悪かったようで、全く手のひらを出しもらえませんでした。

「また後で、薬を飲んでもらいます」と言って立ち去って行ったので、昼食が終わった時に飲んでもらわないと、遅くに飲んでしまうと夕食時に薬の効力が重なってしまう事になりかねません。私は覚悟を決め、指を噛まれてもいいから、薬を吹き出さなければいいのにと思いながら、出来るだけ指を噛まれないように薬を利用者の唇に差し込むとガチガチと指を噛みに来た。ところが、楕円形の薬をボリボリ噛み砕いているのです。指を噛みに来てたまたまそうなったのかよくわかりませんでした。同じ楕円形の薬を唇に持って行くと、また同じように薬をボリボリと噛み砕かれ、これは指を噛みに来ているのではないのではないかと思っていました。最後小さな球状の薬も飲みこまれ、結局薬を吐き出すようなことはありませんでした。指を噛みに来てたまたま薬を噛み砕いたのか、よくわかりませんでした。

その晩、トイレ誘導の声かけをその利用者にしました。「おトイレ行きませんか?」すると、「ええ?行ったぞ」と初めて言葉が返ってきたのです。一瞬、驚いてしまって何が起こったのかわかりませんでした。動揺したのですが、記録ではトイレに行ったことが書いてなかったので「行ってませんよ」とお答えし、「行きませんか?」というと頷かれました。初めて会話が成立してから、言葉は発してもらえていないですが、薬の服薬をお願いできませんかというと、頷かれて手のひらを広げて服薬出来るようになりました。周りの職員もそれを見ていて、「頷いてはるやん?!」というのですが、こちらは、そういう意思疎通が取れるような関係になったのが、少し照れくさいような気もなりますが、「こいつの仕事ぶりなら、ちゃんと言う事を聞いてやろう」と思われたのか、そんな非常に嬉しかった瞬間が今でも続いています。

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