全盲の男性高齢者の介護

 要介護3の男性高齢者が特別養護老人ホームに入所しました。その方は92歳の高齢でまったく目が見えませでした。本人曰く、「若い時に見えなくなったから、光がない世界は慣れています」と笑いながらおっしゃいました。全盲でありながら、とても気さくで明るい性格の方でした。年相応の物忘れはありましたが、意志疎通はだいたいできました。
 入所当初、本人の部屋(ひとり部屋)を検討しました。というのも、本人は加齢に伴っての下肢筋力低下はありましたが、ひとりで立って歩くことができました。自由に動くことができるわけです。
 目が見えず、年相応の物忘れがある方が自由に動ける。転倒などからあらゆる危険性も考えました。ご家族に自宅の環境や様子などを聞きながら、家具の配置やしつらえを検討しました。同時に転倒しても、大怪我につながらないよう、薄いマットを床一面に、布団の下にもマットレスを敷きました。また、生活物品や個人の私物を本人や家族と同意の上、必要のみ置くようにしました。本人は目が見えないため、ラジオが最も大切な必需品でした。
 「音が私にとっては一番ですね。ラジオ聴いてるといろんなことを教えてくれます。私にとっての生きがいです」と、本人はにこやかに語ってくれました。24時間、毎日、本人の部屋からラジオの音が聞こえました。布団で寝ている時もあれば、手探りで歩いている姿もありました。トイレの排泄も基本ひとりでできます。部屋にはポータブルトイレが置いてあり、一連の排泄動作は本人できます。職員は見守り等を中心にポータブルトイレの洗浄などを行いました。食事の時は、声を掛けて手引き歩行の介助をしました。本人は歯がなく噛む力も弱かったので、食事はペースト(形状)でした。食欲旺盛の方でほとんど残すことはありませんでした。
 またある日、ご家族が面会に来られた際、本人にあんパンを手渡しました。私は危ない!喉に引っ掛かると強く思い、本人とご家族に声を掛けました。ご家族からは「おじいちゃんはあんパンが大好きなんです」と全く慌てた様子はありませんでした。本人もあんパンを食べ始めると、「うまい。うまい」と笑顔で言いました。
 一概には言えないことでありますが、人間は大好きな物を食べる時はうれしさや楽しさなどの感情が出て、幸福感に満たされると思います。大好きな物だからこそ、だ液がたくさん出て、噛む力・飲み込む力が強くなります。
 正直、不思議な光景で驚いたことでした。噛む力や飲み込む力が弱くなれば、細かく刻んだりペースト状にしたりして、食べやすい形状にしてましたが、改めてこの男性の介護を通じて、介護の勉強 をさせて頂きました。男性は今でもあんパンをおいしそうに食べています。
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